子育て支援を行うNPO(非営利法人)が、企業と組み、先駆的な子育て支援事業を展開している。香川県のNPO法人わははネットが手がける「子育てタクシー」だ。 わははネットは1998年に中橋恵美子氏(現理事長)が立ち上げたNPO法人。地域密着型情報誌『おやこDEわはは』の発刊(フリーペーパー、年4回発行、1回2万5000部)、母親の交流広場「わははひろば」(4カ所)の運営、夕食の献立を配信する携帯メールマガジン「おうちデリ」など、地域の企業からの広告収入や協賛金を得て、様々な子育て支援サービスを提供している。
子育てタクシーは、2004年7月にわははネットと香川県のタクシー会社、花園タクシーが組み、全国初の試みとしてスタート。ビジネスモデルは中橋氏が考案したものだ。
「『わははひろば』に集まった母親から、『子どもとタクシーに乗ると運転手が不機嫌』『破水してタクシーに乗ったら迷惑がられた』といった声を聞いたことが、このサービスを思いついたきっかけです。タクシーは24時間、365日使えるインフラ。子育て中の親にとってこれほど便利なものはないのに、有効活用されていない。介護タクシーができるなら、子育てタクシーもできるはずと早速、企画書を作り、母親200人のリアルな声を集めたアンケート結果を手に、地元のタクシー会社へ新サービスとして子育てタクシーをやらないかと提案して回りました」と中橋氏。
ドライバーの養成にも着手
子育てタクシーは、チャイルドシートの装着や子どもへの接し方、運転の注意点など、「わははネット」作成の研修プログラムを修了したドライバーが運転するタクシーとした。サービスは、子ども一人でも乗れる「ひよこコース」、乳幼児と保護者が同乗する「カンガルーコース」、急なトラブル・夜中の移動向けの「ふくろうコース」の3つを考案。基本的に料金は通常と同じで、乳幼児を育てている家族や、急な残業で子どもを迎えにいけない共働き夫婦からの需要に答えられる内容とした。
しかし、提案時には、「導入メリットを感じない」と渋い顔をする会社がほとんど。唯一賛同したのが、鎌野実知子社長がワーキングマザーだった花園タクシーだった。
同社のドライバー5人だけで試験運行を始めた子育てタクシーだが、半年後にはリピーターも増加。すぐに各地の同業他社から問い合わせが届くようになる。
中橋氏は全国均一のサービス提供が必要と、2006年6月、「全国子育てタクシー協会」を発足(中橋氏が事務局長に就任)。各地の子育て支援NPOと連携し、研修を実施。子育てタクシードライバーの養成、認定に取り組んだ。「2008年12月までで18都道府県、55社のタクシー会社が子育てタクシーを提供している」(中橋氏)。
現在はタクシー会社も、「業界のイメージアップ、活性化につながる」「新規需要の開拓になる」と同サービスに高い期待を寄せる。実際に導入した会社では、売り上げが1割上がったところもあるうえ、利用者の親から感謝されて「乗務員が誇りを持って仕事ができるようになった」という二次効果も生まれた。

運転手は、研修で子どもとの接し方もしっかり学ぶ。
(写真:全国子育てタクシー協会)
全国へ広がる子育てタクシーは、企業だけでなく行政も注目。2005年には「香川県子育て応援団大賞」を花園タクシーが受賞。交通エコロジー・モビリティ財団より「05年度 交通バリアフリー大賞」をわははネットと花園タクシーが受賞。2006年度には、内閣府の「女性のチャレンジ賞」を共同受賞する。
2008年には日経ウーマン主催「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2009」に入賞(総合7位)。「地域の企業と連携し、共同事業に取り組んでいる」と「子どもと家族を応援する日本」にて内閣総理大臣賞の表彰も受けた。
全国に、子育てを支援するNPO法人は少なくないが、業界の垣根を越え、企業との連携を想定したイノベーティブなビジネスモデルを提案、実践するケースはそう多くない。中橋氏のダイナミックな発想、人を巻き込む力、ビジネスを実現させる行動力は、子育て支援に変革を起こすパワーがある。「今後も、本当に求められるサービスを考え、企業と協力しならが、持続可能な子育て支援モデルを構築したい」(中橋氏)。少子化対策にもつながる中橋氏の提案力にますます注目が集まっている。
(田中祥子=日経ウーマン編集)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20090409/191499/?P=1